この話の登場人物
T弁護士
商子(しょうこ)さん
製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。
大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。
T先輩、今日は著作権について教えてほしいんですけど。
こんにちは。大学の後輩のしょうこさん。知財の勉強、順調そうですね。
そうでもないですよ。特許や商標の権利登録までの流れもまだ理解できてなくて、勉強が全然進んでないです。
著作権はどんなイメージがありますか?
ええと、たしか権利登録が必要ないんですよね。音楽とか漫画とか、面白そうなイメージがあります。SNSでもよく話題になりますし。
そうですね。権利の発生に登録が不要というのは、著作権の大きな特徴ですね。
だから、何となく、分かりやすくて、特許とかよりも簡単そうな気が・・・。
ふふふ。
何かニヤニヤしてません?T先輩、たしか著作権については有名な事件を担当してたんでしたっけ?色々と論文も書いてますよね?
おっ、知ってくれてたんですね。私の論文、読んでくれたのですか?
いいえ、全く。
ガーン。
ともかく、私の著作権のイメージ、間違ってます?
どうでしょうか。権利登録が不要というのは、著作権により保護されるかどうか裁判をするまで分からないってことでもあるんですよ。著作物にあたるかどうかっていうところが、まず一つの大きな論点になりますね。
そうなのか・・・。よく聞く音楽とか、よく読む漫画とか、当然のように著作権で守られてると思っていたけどなあ・・・。
音楽、絵、小説などは、著作権で保護されることが多いカテゴリーの作品ですね。でも例えば、建物の外観とか、ダンスの振付けとかはどうでしょうか?
えっ!?ダンスの振付けって著作権で守られてるんですか?やばい、私のTikTok、著作権侵害で訴えられるかも。ちょっと削除するまで待ってて・・・。
それは知らんけど、ともかく、著作権で保護されるかどうか微妙なカテゴリーの作品もあるんですよ。
著作権って、そもそも何を保護しているんでしたっけ?
「著作物」の定義としては、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定められています(著作権法2条1項1号)。
出たっ!また定義を長々と・・・。
分かってますって。順番に説明しますね。まず、「思想又は感情」を「表現したもの」でなければなりません。思想や感情の入っていない単なる事実やデータの記載は、著作物にはあたりません。頭の中の単なるアイディアでは足りず、外部に向けて表現されていることも必要になります。
事実を伝えるニュースの記事とかは著作物じゃないってことですか?
いや、それが著作物じゃないとは言い切れない。文章の表現や長さによっては、ニュース記事も著作物になる可能性はあります。
いきなり難しい・・・。
そこで重要になるのが、「創作的」っていう要件です。誰でも思いつくようなありふれた表現ではなくて、作者の一定の個性があらわれた表現でなければならないといわれています。
ああ、小さい子の落書きとかじゃなくて、バンクシーとかの芸術的な落書きじゃないと著作物にはならないんですね。
いや、そういうわけでもないのです。作品のカテゴリーにもよるんですが、一般には、創作性のハードルは低くて、最低限の個性が発揮されていれば足りると考えられています。落書きかどうかはともかく、小さい子が適当に書いた絵でも、著作物にあたる可能性は十分あります。
ええ・・どないやねん!混乱してきた。
創作性の要件については、次回にもっと詳しく説明しますね。
で、著作物にあたる場合には、どのような権利が認められるのですか?
著作権は、「権利の束(たば)」と言われていて、支分権と呼ばれる様々な権利の集まりによって成り立っているんです。
何じゃそら?どんな権利が束になって掛かってくるんですか?
作品をコピーする複製権とか、インターネットでアップロードする公衆送信権とか、人前で演奏する演奏権とか、他には・・・。
いっぺんに言われても無理です。徐々に勉強していきますわ・・・。
なんかテンション下がってます?
そらそうよ。著作権って分かりやすくて面白そうなイメージだったのに、出鼻をくじかれましたよ。
意外と複雑なんですよ、著作権って。でも面白いことは間違いないですよ。
難しい上に、T先輩がニヤニヤしながら次々と説明してきて、若干イラっとしてます。
ガーン。(2回目)
次回は、創作性について詳しく教えてもらいますよ!
(2022年11月7日公開)
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