この話の登場人物
T弁護士
商子(しょうこ)さん
製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。
大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。
T先輩、今日は、創作性について教えてもらいます。
あまり乗り気じゃなさそうですね。
前回、難しい話で畳みかけられましたからね。
創作性についておさらいしますね。創作性が認められるためには、作者の何らかの個性が発揮されていれば足りるといわれます。独創性や芸術性といった高度なものは求められません。
でも、ありふれた表現じゃダメなんですよね?
境界線がわからない・・・。
実際のところ、創作性が認められやすいかどうかは、作品のカテゴリーにもよります。例えば絵画とかは、作者の個性が発揮されやすいので、小さい子供が描いた絵でも創作性が認められることはあるでしょう。
(描き描き・・・)この絵はどうですか?
おお、見事な「子泣きじじい」の絵ですね。創作性あると思いますよ。
T先輩の顔ですけど。
・・・。
小説とかの文章はどうですか?
比較的、創作性が認められやすいように思いますね。「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という交通標語(スローガン)について、創作性が認められています(東京地判平成13年5月30・判時1752号141頁)。
なるほど。スローガンとか、俳句とかって、色々工夫して作られているイメージありますもんね。
同じような長さの文章でも、「本日は 天気が良いので 外に出かけます」みたいな、何のひねりもない文章は、ありふれた表現として創作性が否定される可能性が高いと考えます。
創作性が認められないことが多いのは、
どんなカテゴリーの作品でしたっけ?
前回も言いましたが、身体の動作については、舞踊の著作物として認められないケースも多いですね。
社交ダンスの振付けは認められなくて、フラダンスの振付けは認められたんでしたっけ?
T先輩、その分野には詳しいんですよね。
少しだけですけどね。詳しく聞きたいですか?
いえ、今日のところは結構です。
ううう・・。他には、工芸品のように実用性を兼ね備えた応用美術についても、創作性がよく問題になりますね。
工芸品って、意匠が保護するんじゃないんですか?
一定の創作性が認められれば著作権でも保護すべきという考えが有力なんですが、純粋美術と同じ基準で保護して良いのかってことなどが議論になっています。
そもそも、著作権で保護してあげることに問題はあるんですか?色んな作品に広く保護を認めてあげれば良いように思うんですけど・・・。
ただ、著作権による保護を認めるってことは、一定範囲で独占的な利用を認めるってことになります。他の人達が、同一又はよく似た作品を無断で利用することができないってことです。
あ~。だから、よくある表現に著作権を認めると、他の人達が同じような表現を使えなくなるんですね。そうなると、クリエイティブな活動の妨害になってしまいますね。
著作権法1条は、法律の目的として「文化の発展に寄与すること」を挙げていますからね。
結局のところ、創作性があるかないかは、どんな基準で判断するんですか?作者の個性が発揮されているどうかって、なかなか客観的に分かりづらい気がして・・・。
鋭い指摘ですね。悩ましい問題ですが、一つの有力な考え方として、特定のアイディアを表現するにあたり、考えられる表現の選択肢(「選択の幅」)がどの程度あるか、という点から創作性の有無を考える見解があります。
なるほど。例えば、T先輩の似顔絵を描くときに、どんな作風で顔を表現するのか、選択の幅がありますね。
そうですね。似顔絵なんかは、選択の幅が広いといえますね。
リアルな画風でありのままに描くとか、デフォルメして特徴を強調するとか、シンプルで愛嬌のあるキャラクターみたいに描くとか・・・。
「子泣きじじい」みたいな顔にするとか。
さっきのこと、根に持ってます・・・?
次回は、支分権について説明しますね。
果たしてT先輩の似顔絵がどのように保護されるのか、期待してます!
(2022年11月17日公開)
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