この話の登場人物
T弁護士
商子(しょうこ)さん
製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。
大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。
T先輩、今日は、支分権についてのレクチャーですね。
いきなりですが問題です。「支分権」という言葉は、著作権法の何条に出てくるでしょうか?
全然わからんけど・・・、著作権法42条!!
なぜ?
42(しぶん)権ってか。・・・失礼しました!
残念。正解は、「著作権法の条文には出てこない」でした。
相変わらず良い性格をされてますね。
お褒めにあずかり光栄です。・・と、前置きはこれくらいにして、以前に、著作権は「権利の束」だというお話をしましたね。
はい。
イメージとしては、その「束」の一本一本にあたる権利のことを支分権といいます。
あっ、著作権法に出てくる複製権とか、譲渡権とか、公衆送信権とか?
そうです。主な支分権等を表にまとめてみました。
支分権 | 対象 | 内容 | 著作権法上の条文 |
複製権 | 著作物 | 複製をする権利 | 21条 |
上演権・演奏権 | 著作物 | 公に上演し又は演奏する権利 | 22条 |
上映権 | 著作物 | 公に上映する権利 | 22条の2 |
公衆送信権 | 著作物 | 公衆送信(テレビ放送、ストリーミング放送、アップロード等)をする権利 | 23条1項 |
口述権 | 言語の著作物 | 公に口述する権利 | 24条 |
展示権 | 美術・写真の著作物 | 原作品により公に展示する権利 | 25条 |
頒布権 | 映画の著作物 | その複製物により頒布する権利 | 26条1項 |
譲渡権 | 著作物(映画の著作物を除く) | 原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利 | 26条の2 |
貸与権 | 著作物(映画の著作物を除く) | その複製物の貸与により公衆に提供する権利 | 26条の3 |
翻訳権・翻案権 | 著作物 | 翻訳し、編曲し、もしくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利 | 27条 |
二次的著作物の利用に関する権利 | 二次的著作物 | 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する | 28条 |
お、多いです。いくつか減らせませんかね・・・。
残念ながら、そういった立法論はないですね。
複製権、演奏権、上映権あたりは何となくイメージできますよ。公衆送信権が分かりにくい!初学者にとって最初のハードルです。ギターでいうところのFコードみたいな。
公衆への送信、具体的には、テレビやラジオでの放送、ケーブルテレビ等の有線放送をすることが挙げられますね。
テレビの放送?テレビ局とか?じゃあ、公衆送信権は、私達のような一般人とはあまり関係なさそうですね。
そんなことはありません。インターネットでのストリーミング放送やアップロードも公衆送信に含まれます。アップロードのことは送信可能化と言ったりしますね。
えっ、私がYouTubeへアップロードした「歌ってみた」の動画って、公衆送信権侵害なんですか?やばいやばい。
「歌ってみた」の動画の伴奏はどうしたのですか?
私がアコギで弾き語りしました。
それなら、JASRAC等の管理楽曲であれば多分大丈夫です。YouTubeはJASRACと利用許諾契約を締結していますので、しょうこさんの演奏による「歌ってみた」のアップロードは許諾の範囲内と思われます。ただ、元の音源をそのまま流してはいけません。
はええ、意外と身近なところに関係してくるのですねえ。
その通りです。
もしかして、自宅にいるとき、一人で歌の練習をするのも演奏権侵害ですか!?著作権こええ・・・。
いえいえ、支分権の内容をよく見てください。「公に演奏」することが支分権(演奏権)該当行為とされています。自宅にいるとき一人で歌うことは、「公」の演奏ではないですね。
よく見ると、いろんな支分権の内容に、「公に」や「公衆に」という限定が入っていますね。
良いところに気づきましたね。プライベートや仲間内でする行為については、「公に」や「公衆に」する行為ではないとして、支分権対象行為にはあたらないことも多いです。ケースバイケースなので安心はできませんけどね。
なるほど。おひとり様でいつも行動している「ぼっち」の私にとっては助かります。
そんなキャラでしたっけ・・・。
T先輩は大変ですね。「パーティーピーポー」ですもんね。
いつから私がパーティーピーポーになったんですか。
だって学生のときは飲み会がある度に・・・・。
おっと、それ以上はいけない。
口止め料、いただきました!
最後に、二次的著作物の利用に関する権利を見ておきましょう。
二次的著作物?
ある著作物を利用して、その表現上の特徴を残しつつ制作された別の著作物ってとこですね。例えば、漫画を原作としたアニメとか。
私が愛する「二次創作」は二次的著作物ですか?
多分そうだと思います。私はコミケに行ったことないので詳しく知りませんが。
二次的著作物については、元の著作物の著作権者も権利を持っているってことですか?
そうなんです。二次的著作物を利用するには、二次的著作物と元の著作物、それぞれの権利者から許諾を得ることとなります。
じゃあ、コミケで買った二次創作を利用するには、元の作品の権利者の許可も必要ってことか。
そうです。二次創作については、権利者に黙認されていたりして複雑な事情もありますが・・・。
ふふふ、グレーゾーンとよく言われますもんね。
ということで、3回にわたって著作権の基礎について解説しました。
著作権がとっても身近な権利だってことは分かりました。
ひとまず最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
(2022年12月5日公開)
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