この話の登場人物
T弁護士
来人(らいと)君
かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、
近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。
T先生、今日も著作権について教えてもらいに来ました!
ふぁ~。・・・ああ、らいと君。
何だか眠そうですね。遅くまで仕事ですか?
ええ、忙しくて寝る暇がなくて・・・。
大変ですね。調べものですか?
ええ。昨日も、ニャオハが進化して、・・・いや、著作物の研究をしてまして。
(さては毎晩ポケモンの新作をプレイしてるな・・・)
ええと、今日は何のご用でしたっけ?
前回約束した著作権に関する質問ですよ!
・・・何か約束しましたっけ?
前回の最後で言ってたじゃないですか!従業員をゴーストライターにして、会社が著作権を持つことができる、みたいな制度について聞きに来ました。
(こっくり、こっくり)
「職務著作」でしたっけ?その要件を教えてください。
むにゃむにゃ。
ちょっと、聞いてますか?
・・・・はい!?ええと、ゴーストライターが何でしたっけ。新しい細胞を見つけて、やっと議員になったんですう、みたいな話ですか?
全然違います!T先生、ゴーストライターと聞いて意識が2014年に飛んじゃってますよ!議員の号泣会見とか懐かしいです。
今日は体調が優れないので、また日時を改めませんかねえ・・・。
・・・そうだ!T先生、職務著作のことを教えてくれたら、僕が育てたレアなポケモンを差し上げますよ。
・・・!?
目覚めましたか。
らいと君、職務著作とは、一定の要件を満たすことで、法人等の使用者が著作物の著作者になる制度です(著作権法15条1項)。例えば社内でチームを組んでデザインやプログラム開発をした場合、成果物が共同著作物となれば、その利用にあたり著作者である従業員全員の同意が必要となってしまいます。他方で、職務著作の要件を満たせば、使用者のみが著作者となるため、従業員の同意をその都度得る必要はありません。
さっきまで寝てた人とは思えない解説ぶりですね。
職務著作の成立には、4つの要件が必要とされています。①法人その他使用者(法人等)の発意に基づくこと、②法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること、③法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること、④作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと、の4要件です。
順番に説明をお願いします!
①法人等の発意に基づくいうのは、著作物を作成しようという意思が使用者の判断にかかっているということです。
簡単に言えば、言い出しっぺが雇い主でなければならないってことですか。「学園長の突然の思い付き!」みたいな。
必ずしも雇い主が言い出しっぺである必要がありません。例えば、部下がアイディアを出して上司がこれを承認することで、プロジェクトが始まったような場合でも、「法人等の発意に基づく」と評価できることがあります。
そうなのか。
つまり、学園長の突然の思い付きじゃなく、土井先生や食堂のおばちゃんからの提案であっても良いのです。
さすがT先生、忍たま乱太郎にも造詣が深い。
当然です。
(何が当然なのかな・・・。)
次に、「②法人等の業務に従事する者」っていうのは、会社の従業員のことでしょうか?
基本的には、会社の労働者や役員がこれに当たります。雇用関係のない外部の業者は、「法人等の業務に従事する者」にあたりません。例えば派遣労働者のような場合は、ケースバイケースですが、派遣先からの具体的な指揮命令関係があれば、「法人等の業務に従事する者」に当たることもあるでしょう。
外部委託するときには、やはり契約中で著作権に関する取り決めが必要なのですね。
「職務上作成する」とは、法人等の業務として著作物を作成したということです。業務と全く関係のない作業や、プライベートでの作業はこれに当たりません。
会社の業務の一環として従業員が作成したものであれば、結構広く「職務著作」と認められそうですね。
次の、③法人等が自己の著作の名義の下に公表するという要件には、少し注意が必要です。法人等が、著作物の発行者として表示されているだけでは足りず、著作者として表示されていなければなりません。
著作者としての表示?
らいと君、忍たま乱太郎のアニメの最後に、「制作・著作 NHK」って書いてあるでしょ。
「制作・著作」には、そんな意味があったのか。
④作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないことは、社内規則で、こういうものは従業員個人の著作物にします、といった定めがなければOKです。
よく分かりました。
それではここで問題です。職務著作が成立する場合、その著作物についての著作者人格権は誰が持っているでしょうか?
会社が著作者だから・・・でも会社に人格なんてあるのかな?
どうでしょうね。
わかった!会社の社長が権利を持つんじゃないですか!?
残念!不正解です。らいと君、まだまだですね。
ちょっと前まで自分の方が寝ぼけてたくせに・・・。
職務著作が成立する場合、著作者人格権は、著作者である法人等に原始的に帰属することとなります。
会社に人格権が認められるのかぁ。何だかしっくり来ないですね。
らいと君、その感覚は間違っていません。実際、職務著作が成立したとしても、アメリカをはじめとして、法人等には著作者人格権を認めない国もあります。むしろ、日本の制度の方がめずらしいという意見もあります。
アメリカでは認められないのか。僕はシリコンバレーの創業者たちと同じ感覚を持っていたのですね。
ところで、らいと君。職務著作の説明をしてあげた代わりに、ポケモンをもらう約束だったのですが・・・。
あっ、T先生。何度も話題に出ている「著作者人格権」って、具体的には何ですか?まだ説明してもらってませんでしたよね?
シリコンバレー云々と言ってたくせに、分かってなかったのですか・・・。
次回、著作者人格権について教えてくださいね!
約束したポケモンは・・・。
では次回!
(2022年12月9日公開)
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