この話の登場人物
N弁護士
しょうこさん
製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。
大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。
N先生、またお邪魔しています。先日はT先生に特許のこと教えてもらって、とても勉強になりました。そのとき、T先生から営業秘密っていうお話も聞いたのですが、営業秘密のことなら、N先生は、ずっと前だけど高額の賠償請求が認められた事件を担当されたことがあるから、N先生から話聞くといいよって言われまして、今日は、またお伺いすることになりました。
T先生には、5億円勝訴の武勇伝語っちゃったからなあ。T先生から今日のことは聞いていて、お話しする準備をしていました。
営業秘密って、普段会社でも使いますが、Mission Impossibleなんかで、これは重要な企業秘密だって、トム・クルーズがしぶ~い表情で語るシーンしか思いつかないんですが、企業秘密と営業秘密って同じなんですか?
Mission Impossibleかあ、トム・クルーズ版って見たことないの。私が子供のころには、「スパイ大作戦」って言ってね。Spy &Familyじゃないのよ。私の推しはもちろんロイドさなんだけど、スパイ大作戦では、「なおこのテープは自動的に消滅する」ってシーンが冒頭にあってね。Missionを伝えるテープは、本当にテープレコーダーから煙が出てきて、内容は消されちゃうんです。子供でもとってもおもしろかったよ。あれ?なんの話だったっけ。
先生って結構アニメも見てるんですね。国家秘密の話じゃなくて、営業秘密の話です!
そうそう、失礼しました。企業秘密と営業秘密の関係ね。簡単にいうと、企業秘密の中で、これからお話しする要件を満たすものが、営業秘密になると思ってもらっていいと思います。
どんな要件があるんですか?
不正競争防止法第2条6項が要件を定めています。短く言うと、ある情報が①「有用」で、②「秘密管理」されていて、③「公知」でないこと(非公知性)が求められるのよ。
単語がだんだん難しくなってきました。まず、有用性からわかりませ~ん。
要件論に入る前に、「情報」についてちょっとだけお話ししておきましょう。情報っていうと、文字情報だったり、計算式だったり、その結果の数字を想像されるとおもうのですが、面白いものでは、菌っていうのがありました。CoQ10っていう酵素、これを作るには、化学的に製造する方法と、生物学的に製造する方法があって、CoQ10を作り出せる菌自体が、情報とされた事件なんかもあるんですよ。
CoQ10ってなんですか?
私も難しいことはわからないけれど、まだしょうこさんには関係ない、アンチエイジングの効果のある酵素のようです。塗るタイプの化粧品にも、飲むサプリにもCoQ10入りっていうのがあります。
菌が情報って面白いけれど、そういえば、菌もDNAなんかの情報の塊ですもんね。覚えておきます。では、要件論、よろしくお願いしまあす。
これらの要件を満たしているかは、た~くさん判例があるくらいむずかしいお話なので、ゆっくり行きましょうね。有用性っていうのは、その情報が、事業活動にとって、客観的に有用という意味だと説明されています。この有用という意味には、例えば臨床試験の失敗データなんかも含まれるんですよ。
失敗だったら、それは役にたたない、有用じゃない情報ってことではないんですか?
実際に使える物を作るには、もちろんまず理論が必要ですが、何度もトライアンドエラーを重ねて、ほんとうにできるかを確認します。また、少量をラボ(実験室)ではうまく製造できたけど、大規模に試してみたら、うまくいかなかった、なんてこともありますよね。それを乗り越えて、ちゃんと販売できる製品が出来上がります。うまくできた新製品の背景には、膨大な失敗(エラー)の歴史があるんですよ。
私も少しわかります。だから研究開発部は、ラボ実験のあと、なんどもラインでできるか確かめてるんですよね。
こんな条件だとうまく行かなかったっていう、ほかの人がやったトライアンドエラーの情報を知っていれば、もうそれは試す必要がないですよね。だからこのようなエラー情報も有用な情報ということで、ネガティブ情報であっても有用性が認められるんですよ。でも秘密ならネガティブ情報も全部!有用性があるとは思わないでね。
???
同じネガティブ情報で秘密にしておきたい情報、例えば経営幹部の不倫スキャンダルなどは、公に知られてしまうと企業自体の価値も下がるかもしれず、厳重に箝口令がひかれて秘密を保たれるかもしれないけど、これは有用情報ではありません。
そうか。じゃあ上司の不倫スキャンダルは外の人に言ってもいいってことですか?
ちょっと脱線しちゃったわね。あなたがそのスキャンダルを業務上知ったのなら、入社時に書いた秘密保持誓約書で秘密にしますって、約束しているので、これに反したことになってしまうかなと思います。不倫スキャンダルは、道義的には責められるかもしれないけれど、普通の人にとってはプライバシーの及ぶ範囲だからね。それと脱線ついでにちょっと注意をしておきますが、会社が仮に不正なことをしていることを知っても、これを直ちに外部に漏らすと同じく秘密保持義務に反したことになりかねないですよ。これは知的財産の問題とは違って、外部に言うことによって会社を正すべきかどうかを定める「公益通報者保護法」の問題になる話です。この法律もとても大事だけれど、今日は営業秘密の話に集中しましょうね。
先生、失礼しました。はい、有用性のことは大体わかった気がします。
さあ次は一番難しい要件、「秘密管理性」についてのお話ですね。ランチタイムだから、この後にしましょうか?下のカフェ、ホットケーキがおいしいので、食べてからね!
アイスとかも乗っている写真、ビルのいりぐちあたりで見ました。うれし~い。食べてからがいいです。
ではランチの後に。
(2022年10月24日公開)
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