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不正競争防止法、営業秘密② 秘密管理性

この話の登場人物

  N弁護士

商子(しょうこ)さん

製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。

大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。

  

 



ね、ホットケーキおいしかったでしょ。





私2枚頼んじゃったから、おなかいっぱいです。眠くなりそうで心配です。




私もいたチームで死闘を繰り広げた大冒険の事件の話もあるから大丈夫よ。この事件で5億円あまりの賠償が認められたっていうのは、機械の設計図、9万枚にもおよぶものでした。この図面をもとに機械が組み立てられるので有用性は、あまり、問題なく認められました。また顧客名簿なども、技術情報ではないけれど、多くの事例で有用性が認められています。【機械装置事件(福岡地判平成 14 年 12 月 24 日・ 判タ 1156 号 225 頁)



5,5,5億円ですか?すごいですね。がぜん一生懸命伺う気になってきました。あの、それと判タってなんですか?




ごめんごめん、判例タイムスっていうのが雑誌の正式な名前なんだけど、私たち実務家は、判タ、判例時報は、判時って略称してます。





失礼しました。そんな雑誌ってうちの会社でも取っているんですか?





1.秘密管理性


雑誌を購入するとデジタルでない場合はかさばるし、取っておられない会社も多いと思います。代わりに判例検索ソフトを導入されているところも増えていると思いますよ。



うちはどうかな?部長に聞いておきます。ところで、秘密管理って、どんな場合に認められるんですか?ときどきまわってくる書類、うちまだ紙の書類も結構あるんですが、右上にマル秘ってはんこが押してあるのがあって、こんなハンコが押されていたら、秘密管理してるってことになるんですか?




それだけで、秘密管理しているって認められるのは難しいですね。はんこさえ押せばいいっていう問題じゃないから。しょうこさんは、帰宅前に机の上とかきちって整理して帰る?パソコンもログアウトしていますか?





はあ?はい、机の上の書類は、引き出しにしまって、パソコンは、自宅勤務もあるので、電源はつけたままですが、必ずログアウトしています。でも同僚がそれうまくできなくて、私が後で帰るときはログアウトしてあげてます。




あはは、って笑い事じゃないですね。パソコンでアクセスできるサーバーの中には、大事な営業秘密の情報が載っているデジタル文書がたくさんある可能性があるので、ログアウトを皆さんが励行していることはとても大事ですね。秘密管理性は、訴訟などで営業秘密を立証するうえで、最も重要かつ、もっとも難しい要件です。かつては、裁判所は非常に管理性を厳しくとらえていてねえ~。私も苦労しました。





先生でも苦労されたんですか?





ヨイショしてくれても何にも出ないですよ。私が投資マンションの顧客名簿について営業秘密だと主張した事件では、今判決を読み返しても腹が立ちますが、会社としてはアクセス制限をするなど、営業秘密の管理体制をとっていたと認めながら、営業部員は営業中にいろいろデータを集めてくるので、これがすべて営業秘密として管理されていたわけでないとして、全体として営業秘密じゃないとしたの(平成22年10月21日大阪地裁判決)。





でもその営業部員は、それが会社の重要情報って知っているんでしょ。






これは今から10年以上も前の事件です。こんな認定では、営業秘密なんて世の中にないことになってしまうと、私たちもずいぶん主張してきて、少し裁判所も緩やかに認めるようになってきました。




そりゃそうでないと困りますよね。




でも、たとえばデジタルデータでは、パスワード管理が、絶対に必要だし、紙媒体やフロッピ、なんてしょうこさんにはわからないかもしれないけれど、CDの昔版みたいなものね、今でも行政機関では使っているところもあるらしいですが、そんなフロッピやUSBメモリや、CD、ハードディスクなども、鍵のかかったキャビネットに入れてちゃんと鍵をかけてないとだめです。裁判例からは、①客観的にアクセスできる人が限られていること、それと②秘密管理されていることがそれを持ち出したいと思う人に主観的にわかること、この二つが必要とされています。




キャビネットに鍵かけるんですか?技術開発部は、部長さんしかキャビネットの鍵持ってないので、部長さんが新型コロナに感染したり、濃厚接触ってことで、自宅待機になったら、仕事になりませ~ん。





そうですね。ただ日本では、営業秘密の不正取得の事件のほとんどは、Mission Impossibleのトム・クルーズみたいに、セキュリティのためのレーザー光線をかいくぐって、部屋の中央のガラスケースの真ん中に置かれた、USBメモリを手に入れるなんて、産業スパイの事件はなく、外部の人が関与していたとしても、企業の内部の人に、持ち出させるんですね。だから、その人にとって、持ち出していいものと悪いものがわかっている必要があるというわけです。




先生が担当されたエディオンさんの事件はどうだったんですか?






エディオンさんは、そのような秘密管理のために十分な投資もされて、被告側はいろいろ主張はされたけれど、秘密管理性はあまり問題にならないくらい、パスワード管理だけでなく、持ち出すことにも十分な制限をしているとして秘密管理性があるとされました。経産省の資料にも載っているので(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/unfaircompetition_textbook.pdf)、また、アクセスしてみてください。




先生、さっきの秘密管理が認められなかった方のマンションの事件、お客様の情報でしょ、前回の不倫スキャンダル情報はともかく、会社にとって必要なものなら持ち出しちゃいけないって当り前、私のような新人でもそう思いますが・・・。



んんん。あの事件の時の悔しさをもう一度思い出せないでえ。そのとおり主張したのよ~。でも当時は、客観説と言って、裁判所の態度はとても厳しかった。あの事件は、大阪地裁の事件だったけど、東京地裁はもっと厳しく、それが王道だって当時の裁判官がのちに弁護士になっておっしゃってました。



ひど~い。





本当にあの事件は悔しかった、現場の仕事の仕方わかってんの!って思ってました。いまは私も提唱者だと思っているのだけれど、「相対説」といって、規模に見合った秘密管理をしていればいいというように変わってきています。ここでいう規模は会社全体というわけではありません。何千人も従業員がいらしても、この特殊な技術開発にかかわる人員はせいぜい20人、小さな建物で、入り口のセキュリティのみ厳重ですっていう場合も、秘密管理性が認められる可能性は十分にあると思います。しょうこさんがおっしゃるとおり、鍵を持っている人を限っちゃうと日常の業務ができなくなっちゃいますからね。




裁判所を説得するのって難しいんですね。





私たちはご依頼者の立場からだけのものの見方をしますが、裁判所は両方の言い分を聞くお立場ですからね。でもやっぱり悔しい事件は悔しいのよ。




先生の熱ぅ~いお気持ちはわかりました!




2.サイバー攻撃と秘密管理性


ああそうだ。言い忘れてました。営業秘密の侵害には内部者の関与が多いって言いましたが、近頃は企業が、サーバー攻撃にあっている例が増えているんです。



あのそれって、サーバーとかのセキュリティかいくぐってってやつですよね。




そうなの。それで重要な技術情報や、営業情報でも秘密の顧客名簿とか、仕入れ価格や、システムの組み立てを盗もうってわけね。





でも営業上の情報なら、確かにそんなのがありそうってわかりますが、まだ世に発表してない商品の技術情報なんて、どうしてわかるんですか?




はっきりしたことはわかりません。AIを使ってあらゆる企業のメールを読んでいるってことも考えられるし、大阪キタでは、東通り商店街とか、ミナミとかで、みんないい気分で、2次会とか、大勢ほかの人もいる場所で、秘密情報とまでは言えなくても、こんなの今やってってさ!って社章付けたまましゃべったりしているのも、横で聞かれている可能性もあります。私は阪大の工学部で、個人情報保護法の講義をしていますが、ご担当の教授から、なんでこの企業がねらわれてるのって聞かれたこともありますよ。



同僚との飲み会も気を付けないとってことですね。





そういうのを壁に耳あり、障子に目ありっていうんだけど、意味わかる?






全然わかりません。今覚えました。




そう、この頃昔のことわざが通じなくて、困ってるんだよね。ちょっと年を感じてしょんぼりしたところで、今日はこの辺にしようか?





えへんえへん、だんだん社会人になって覚えます。次は最後の要件、「非公知性」ですね。ちゃんと覚えていたでしょう?先生、年なんて誰でも取るんですから元気出して。




なんだか余計落ち込んだ~~。またね。





(2022年11月7日公開)

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