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不正競争防止法、営業秘密⑤ 営業秘密、侵害に対する民事訴訟

この話の登場人物


  N弁護士

商子(しょうこ)さん

製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。

大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。


 



あれ、先生今日はなんかうきうきですね。





わかる!?Julieの久しぶりのシングルリリースのCD買ったから。とってもいいバラードなのよ。




(しまった。この話に触れてはいけなかった。話が前に進まない。)





営業秘密侵害訴訟の話にいかないと思っているでしょ。大丈夫、大人のバラードで、私のひそかな楽しみだから、あなたにあれこれ説明はしないわよ。では、訴状を提出してからの話でしたね。




まだ訴状提出しちゃったって話になってません。どんな訴状を書くか

ってところです。





1.請求内容―差止




そうでしたね。まずは、営業秘密を使ってはならない!という請求、これを差止請求っていうのだけれど、これを請求します。




認められたら、どんなことが起きるんですか?





遵法精神の高い被告なら使用をやめるでしょうね。





そうじゃなかったら・・・。




強制執行は難しいです。だって執行官に、ある製品に営業秘密が使われてるかって、判断するのは困難なので。でも宣言的効果は大きいです。私たちは担当した事件では、記者会見なども行っています。判決、そのまま記者さんに見せて、非公知性がなくなると困るので、黒塗りしたり、準備が大変なんだけど。




でも、被告は使い続けるかもしれませんね~。






その場合、それ自体新たな侵害行為になるので、刑事事件化もできるでしょうし、賠償額も増えますね。






2.請求内容-損害賠償



ではその賠償の話を教えてください。





特許法なんかと同じで、不正競争防止法にも損害の推定規定があります(不正競争防止法第5条)。これも使いつつ、いくらくらいの損害だって、まあ訴状の段階ではおおよそを書いて提出することになります。私が担当した事件は、何十億円って請求が多かったわね。




ゼロの数がわかりません。





もちろん、訴額が大きいと裁判所に支払う訴訟費用も高くなるので、そこは一定加減をするのも大事です。後で時効消滅って言われないための工夫もね。でもこの話はちょっと難しいので、今はやめておきましょう。




訴状を作るにはほかにどんなことを気を付けるんですか?





3.営業秘密の特定



実は一番大変なのは、何が営業秘密かって説明する部分です。営業秘密の特定って、別紙のとおりの営業秘密って書くんだけど、その別紙に何を書くかですね。




先生、前に、特定でもめて、Mなんとかを裁判所の机にど~んとおいた

っておっしゃってたあれですね(参照営業秘密第3回)。





訴状の段階からそんなことはしません。獏ぜ~んとこんなものって書いておきます。




それで被告から、特定できてないっていわれちゃうんだ。





よくお分かり。そのとおり、でもそれは初めから作戦の一部。被告の対応を見て、特定の範囲を決めていきます。ここから先は、私のノウハウだから、これ以上は話せないけどね。




はい、今伺ってもよくわからないと思うので。じゃあ、訴訟はどんな

 風に進むんですか?




まずは、裁判所にどんな営業秘密なのか、有用性や、非公知性を含め理解してもらって、それに対してどんな秘密管理をしているかを説明します。技術情報だったら、説明会なんかもお願いしたりします。それに、被告は、営業秘密の特定ができてないって、そればっかり主張されるんで、その点をなるべく早く終わらせる工夫も大事よ。私のノウハウだけどね。




4.営業秘密侵害罪の刑事事件と民事事件の違い



じゃあ、それが終わったらどうなるんですか?





刑事事件が先行して、有罪が出ていても、民事事件はもっと広い範囲の営業秘密の範囲に関して訴訟の請求の対象とするので、それを被告が同入手したかも論点になりますが、前回お話しした証拠保全などで、被告の資料にそっくりさんなんかがあると割と、スムーズに立証できます。




なんで刑事事件は範囲が狭いんですか?





あんまりいうと検察庁に叱られちゃうかもしれないけれど、日本では検察庁は一罰百戒っておっしゃってて、罰金額にはあまり興味がないように思います。アメリカのDOJなんかだと、どれだけ罰金取れたかってプレスリリースまでしますし、実際に桁が違うので、何十億円、何百億円の罰金が科されたら、国家が儲けるって言っちゃうと身もふたもないけれど、意味がありますね。日本では最大で10億円だから。もちろんヒュ    

         ーマンリソースの問題もあるのだと思うけれど。




DOJってなんですか?





ああ、失礼、Department of Justice、米国の司法省のことをそう呼んでいます。今に国際事件にも関係するようになると、どんなに怖い機関かよくわかるようになると思いますが。




そんなことにならないことを願います。




いえいえ、あなたの会社がなにか変なことをされるといっているのではないの。でも協力要請にだって、きちんと対応しないと、司法妨害罪って厳しい罪に問われるから、覚えておいてね。




先生、民事の話に戻りたいですう。





5.損害の立証―推定規定の是非




すぐに脱線しちゃうねえ。ごめんなさい。

じゃあ、最後の論点損害額の算定に行きましょう。ここでのアドバイスは、推定規定(不正競争防止法第5条)に頼らないということです。




先生、それじゃ何のためにそんな推定?規定があるのかわかりませ

  ん。




そうですね。推定規定を使うためには、少なくとも被告の売上げを被告から提出させる必要があります。が、日本では文書提出命令って、当事者や第三者に提出を求める民事訴訟法上の規定はあるものの、ほとんど機能していません。



じゃあ何のための規定なんですか?





日本では自分の手持ち証拠で戦えっていう、母法であるドイツ法の影響が強いんでしょうね。被告は、この点を徹底的に争う場合が多いです。




アメリカでは違うんですか?





アメリカには、ディスカバリといって相手方当事者には、関連する書類の提出(Production of Documents)や、関係者にインタビューできる制度(Deposition)があるし、それに協力しないで、裁判所から命令が出たのに従わないと、司法妨害って、さっきも言った重罪になります。




民事事件でもですか?





もちろん。それだけ、裁判所の権威っていうか、権力っていうかが強いんですね。




じゃあ、日本ではどうしたらいいんですか?





6.損害の立証―ある例




頭を使うことです。推定規定に頼らず、民法の不法行為に基づく損害賠償請求の時と同じように、様々な工夫をするんです。




それも先生のノウハウで話してもらえないんですか?





私が過去に担当したある事件では、半導体関連の機械に関係する業界で、競合他社の数は、限られていました。シリコンサイクルっていうのがあって、当時は半導体の関連機器の売り上げには、各社同じようにいい時悪い時が流れのようにありました。その中で原告だけが流れと違って悪くなる一方だったんです。それは、被告が原告の設計図を使って、製品(機械)を作って、原告の売り上げを奪ったんだって、ちょっと独

         禁法の損害賠償の考えを取り入れて主張しました。わたしがいうだけじ

         ゃ何の権威もないので、大学の先生に意見書も頂戴して、約5億円の勝

         利を得たというわけです。



そんなことどうやって思いつくんですか?




事件を担当しているときは、何をしているときも頭のどこかに事件のことがあります。民訴法学会の分科会で、独禁法の損害賠償についてご発表になっているのを聞いて、これだって思いましたね。




ひゃあ、それは大変ですね。






JulieのDVD見ているときは別よ!つぎは営業秘密についての最後、他社の営業秘密が持ち込まれちゃったらどうするかをお話ししましょう。



(2022年11月28日公開)





                                     


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