この話の登場人物
N弁護士
商子(しょうこ)さん
製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。
大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。
3 独占的な権利の意味
先生、このお菓子おいしいです。コーヒーと甘いものをいただいたら、頭がさえてきました。さっき、権利を持っている人は、その人だけがその権利を使えるっておっしゃいましたよね。でも、それじゃ、ほかの人はだれも使えなくなってしまいますよね。著作権って、確か歌とか映像も入るのですよね。でも作曲家とか歌手の人が自分で配信してたり、DVD売っているわけじゃない。誰も使えないと、お気に入りのenpyhenの歌が聞けなくなっちゃうんじゃないですか?
enpyhenのメンバー誰のファン?私もグループは知ってるのよ。私の場合はJulieの歌が聞けなくなっちゃうと困るなあ。
はっ誰のことですか?
Julieは74歳の今も現役の歌手、20代30代は本当に、美貌のスーパースターだった。私高校の後輩なの。
こんどYou Tubeで見てみます。
私も著作権的にはどうなのかと思うのだけれど、それはそれは素敵な動画がいっぱいありますよ。おっと、Julieの話をするためにお菓子食べたんじゃないよね。Julieのこと話し出すと止まらなくなるから話を戻しましょう。
そうでした。
独占的に使えるって言ったときに、もう少し説明すべきだったわね。権利を使えるって意味には、その権利を貸し出す、特許だと実施許諾、その他の権利だと使用許諾っていいますが、一定の使用料というもの、専門的にはロイヤルティともいうけれど、いろんな使用条件と使用料を決めて、貸し出すことができるんです。
先生、それライセンスっていうんでしょう。
よく知っていますね。自分では使わないけれど、うまく使ってくれる人に貸し出して、ロイヤルティを得ることだけをビジネスにしている会社もあるんですよ。
ロイヤルティ?
会社でこの話になったら、ロイヤリティといわず、ロイヤルティと言いましょう!もとは英語のRoyalty という言葉なので、「リ」じゃなく、「ル」なの。こう発音すると、「わかってるねえ」って上司の方に言ってもらえるかも。
ちょっとわかった気がします。でもなぜ、国がわざわざ登録制度まで作ってそんな権利を財産権として認めるんですか?この発明!て決めて、貸し借りするなら、国が関与しなくってもいいような気がします。
4 知財を国家が保護するわけ
おっ、鋭いなあ。登録をするってことは、その登録の内容がほかの人にもわかるようにするってことよね。それによって、たとえば発明を保護する特許のような場合、ほかの人が同じ研究に時間や費用や労力をかけるのを避けられるでしょう。
確かにそうですね。
そして、その発明がどうしても必要なら、特許権者から借りて、ほかの技術の開発に投資してもらうというような、権利を持つ人だけでなく、社会全体が、その発明の恩恵を受けるようにとの意味が込められています。
ほかの人に知らせるって意味があるんですね。
そのとおり、ちょっと難しい話になるけれど、ある発明がその産業を発展させる標準技術となるような、そんな発明に特許権が与えられた場合、特許権者は、貸す貸さないは、私の勝手でしょとは言えず、たとえライバル会社にでも一定の公平な条件で貸さないといけないといった場合もあります。FRAND宣言特許なんていうのですよ。
5 先願主義
登録ができるって意味について、もう少し考えてみましょうか?
先生、登録ができるのは一人だけなんですよね。もし似たようなことを別々に考えていて、発明だとして特許申請したら誰がその権利をもらえるんですか?
面白いところに気が付いたわね。特許については、国によって考え方が違ってるんですよ。日本は「先願主義」って言って、先に申請をした人が権利をもらえます。アメリカでは、「先発明主義」といって、先に発明した人に権利が与えられます。なので、登録特許を持っていたところ、先に同じ発明を思いついたという人が現れ、その人のほうが早くに思いついていたことを証明出来たら、その特許は無効になってしまうんです。
ええっ、もしライセンスとかしてたら、借りてた方はどうなるんですか?
契約上、とても大変なことになります。なので、安定性という観点からは先願主義がはっきりしていていいですね。日本では他の権利、商標や意匠なども同じく、先願主義です。
6 特許で権利化するか営業秘密とするか?
先生、でも特許って、発明の中身を全部公にするんですね。みんながちゃんとロイヤルティ(ちゃんとルって言えた!)を払ってくれればいいけれど、パクっちゃって、あ、すみません、勝手に使用してしまって、知らんぷりしたらどうなるんですか?
そうね。特許侵害の立証は、簡単ではありません。ただ、出来上がった「物」に関する特許であれば、技術的に特許技術そのものか、または、ちょっと迂回しているけれど特許侵害って言えるか、立証する方法はありますよね。
確かに!?
問題は、方法の特許といわれるものです。出来上がった物をいくら比較しても、どんな方法でできているかはわからない場合が多いのです。作っているところは相手の工場でしょ?中に入って作っているところを見るというのは、日本の裁判システムの中では、とても難しいのよ。また、この点については、T先生から教えてもらうことにしましょう。
どうしてですか?潔白であれば、どうぞ見てくださいって言えば済むことじゃないですか。なのに工場を見せられないのは、やっぱり、その特許と同じ方法で作ってるって自白しているようなもんじゃないですか?
そう簡単にはいかないのよ。工場には、そのほかにもいっぱいその会社の様々な技術が詰め込まれているでしょ。「これは当社の営業秘密ですから、たとえ裁判官にでもお見せできません!」っていわれると、なかなか方法がないの。様々な工夫もされつつあるけれど、簡単ではない、T先生がしっかりおしえてくださると思います。
すみません、ちょっと納得いかず、でも先生に怒ってもしょうがないですよね。
うん、私たちも時々、地団駄踏んでます。というわけで、あんまり立証が難しいもんだから、近頃、特許を担当している経産省は、「方法の特許」は、特許にするかどうか、よくお考え下さい、なんてウェブサイトに書いてますよ。
でも特許にしておかないと、あとで誰かが特許をとれば侵害って言われるんじゃないんですか?
これも難しい話ですが、先に実際に製造までこぎつけていて、それが証明できれば、「先使用権」というのが認められます。
先使用?
いつこんな発明ができて、いつから実際に使っていますというようことを記録しておくと、先に発明して使っていたとして先使用権が認められます。
どの程度記録するとか難しそうですね。うちの開発部や製造部って、連携できてるのかなあ?
あなたとてもショッキングピンクね!素晴らしい。そう開発部と製造部にまたがる話なので、連携しておくことが大事です。
ほかに方法ないんですか?
ほかにないだけでなく、ほかにもしておくことは、それを大事な営業秘密として社内で管理しておくことです。営業秘密については、また今度、私からお話ししましょう。なんといっても5億円の賠償請求権を勝ち取ったのよ。20年以上も前の事件だけれど、金額としては今でも最高額に近いんですよ。
あら、ちょうどT先生が帰っていらした。ではここからはT先生に特許とは何かって、しょうこさんに説明してもらいしょう。しょうこさん、また事務所にいらしたときに、営業秘密のお話をしましょう。ではまた。
(2022年11月16日公開)
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